大老・井伊直弼で知られる彦根藩。
しかしその後の井伊家の幕末における動向はあまり知られていません。
戊辰戦争ではどのような対応をしたのでしょうか?
今回は、彦根藩の幕末や戊辰戦争における動向をはじめ、最後の藩主である井伊直憲という人物についても解説します。
幕末における彦根藩の動向は?幕府を裏切った理由とは?
幕末における彦根藩と言えば、1850年に彦根藩主となった井伊直弼が有名ですよね。
直弼は藩主としては非常に優秀で、その政治手腕は後に処刑する事となる吉田松陰からも賞賛されている程です。その後、大老に就任した直弼は安政の大獄によって一橋慶喜(徳川慶喜)を推す人々を徹底的に弾圧しましたが、この直弼の行動が、幕末や戊辰戦争における彦根藩の動向に大きな影響を与えたのです。
その後、直弼は1860年の桜田門外の変で暗殺され、その跡をわずか13歳の井伊直憲(なおのり)が13歳で家督を相続する事となります。しかし、薩摩藩が求めた幕政改革のなかで直弼の政治責任を取らされた彦根藩は、その領国のうち10万石を減封されることになってしまいました。こうした厳しい処罰に対して、直憲は父親の腹心だった長野主膳らを処刑するといった対策を講じますが、回復できたのはわずか3万石のみでした。
彦根藩は不満を抱えつつも、藩の汚名返上のため禁門の変や天狗党の乱で出兵し、幕府内での地位回復を狙っています。1866の第二次長州征伐でも先鋒として戦いに臨みますが、赤備えの装備は夜でも目立ったため、長州藩の格好の標的となり、惨敗して多くの死者を出すことになってしまいました。その後、彦根藩は武力を西洋式に強化していきます。
戊辰戦争や明治初期における彦根藩の動向は?
そんな中、将軍となっていた徳川慶喜が大政奉還を行います。
この頃の彦根藩は、岡本半介ら慶喜との関係を重んじる家老と、谷鉄臣や大東義徹といった新政府側寄りの下級藩士が対立します。一体どちらの側につくべきか。
大政奉還の翌年の鳥羽・伏見の戦いでは、岡本半介が慶喜のいる大坂城へ参陣しましたが、藩の大多数の兵力は最初から新政府側に加わっていました。つまり彦根藩は譜代大名筆頭でありながら、直弼の死後に幕府から受けた仕打ちや当時の状況を鑑みながら、新政府軍についた方が自らの名誉を回復することができるのではないかと決断したのです。
そして戊辰戦争において、彦根藩は完全に新政府軍として参戦する事となります。東山道軍の先鋒として江戸へ向かった彦根藩は新撰組の局長である近藤勇の捕縛に加わる手柄を立てています。一方で宇都宮城の戦いでは、旧幕府軍の大鳥圭介らと戦い、9名が玉砕するほどの激戦を見せています。その後は白河口から会津に転戦し、これらの働きによって彦根藩は戦後、朝廷から2万石を付与されています。
その後の彦根藩は、谷鉄臣や大東義徹といった新政府に近い下級藩士による人材登用などの改革が行われました。そして1871年の廃藩置県によって彦根藩は「彦根県」という名前に、藩主の井伊直憲はその知事になるのです。
彦根藩最後の藩主、井伊直憲ってどんな人?
ところで、彦根藩の最後の藩主である井伊直憲とは、どのような人物だったのでしょうか。
井伊直憲は1848年、直弼の長男として産まれます。母親が側室だったため、父親が生きている間は嫡男として扱われていませんでした。その後1860年に家督の継承が許され、幕府との関係改善を模索しつつも、最終的には新政府側に付いて彦根藩を存続させました。明治時代になると知事や貴族院議員を歴任した後、1884年の華族令によって伯爵に、そして1897年には勲二等旭日重光章を授かり、1902年に53歳で亡くなっています。
また、直憲は1868年に有栖川宮幟仁親王の娘、宜子(よしこ)と結婚しており、その間に嫡男の直忠を授かっています。この井伊直忠は能がとても好きで、自らの人生の多くをこの芸事に捧げた事で知られています。現在も残る彦根城博物館には多くの能のお面が展示されていますが、その多くがこの直忠が集めたものだと言われています。
この記事のまとめ
このページでは彦根藩の幕末や戊辰戦争における動向、そして最後の藩主である井伊直憲についてご紹介しました。
幕府のために命を捨てたと言っても過言ではない井伊直弼ですが、その死が彦根藩を幕府から遠ざけ、新政府側に走らせたと言うのは皮肉な気がします。家臣たちの主張の違いもある中、最後の藩主でわずか13歳で家督を継いだ井伊直憲の葛藤は言葉には言い表せない程のものだったのではないでしょうか。
そのような中、彦根藩は動乱の幕末を乗り切り、その血筋を今に至るまで伝えています。
なお、以下の記事では井伊家の家系図について、戦国時代の井伊直虎の時代に遡って解説しているので、興味があれば一度ご覧になってみて下さいね。
※参照:井伊直虎の家系図を解説。井伊家のその後も気になる!
彦根藩、加賀藩の幕末前後を題材にした本を
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